【相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できる?】精算課税は使った方がいいのか?
この記事の監修者
遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士
医療に特化した個人会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、相続専門の税理士法人シーガルを設立。
相続のプロとして相続税申告・相談・セミナー講師と多岐に活動中です!
中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、相続専門の税理士法人シーガルを設立。
難しい相続の専門用語を使わず、わかりやすく説明することをモットーとしています!
「相続時精算課税制度」ってなんですか?
「相続時精算課税制度」とは、子供や孫へ2,500万円まで非課税で贈与できる贈与税の制度です。
高齢者から若年層への生前贈与を促進し、経済を活性化するために設けられた制度なんですよ。
へぇ~
「相続時精算課税制度」を使えば贈与税がかからずに子供や孫に贈与できるってことですね!
そうですね!
しかし、「相続時精算課税制度」はその名の通り「相続時」に生前贈与した分を「精算」して「課税」する「制度」ですので、相続時には税金がかかってしまいます。
相続税がかかる!?
ちょっと何言っているのか分かりません。。。
贈与した時は税金はかからないようにするけど、最終的な相続の時では税金がかかります。
つまり「相続時精算課税制度」とは、税金を支払うタイミングを先延ばしするという制度なんですよ。
う~ん。。。
理解出来たような出来なかったような。
結局、私は「相続時精算課税制度」を使った方がいいんですか?
「相続時精算課税制度」は多くの人が使った方がいい制度です!
メリットデメリットを整理して、わかりやすく解説しますよ!
神奈川県茅ヶ崎市にある茅ヶ崎市、藤沢市、鎌倉市の相続に強い税理士法人シーガルです。
本記事を最後までお読みいただくことで、次の悩みを解消できます。
- 「相続時精算課税とは?」
- 「相続時精算課税の改正はいつから?」
- 「相続時精算課税のメリット・デメリットは?」
- 「相続時精算課税と暦年贈与は併用できる?」
- 「結局、相続時精算課税は使ったほうがお得なの?」
贈与税の基礎と改正
贈与税の基礎
- 贈与の種類は大きく2種類ある
⇒①暦年課税、②相続時精算課税 - 特別な手続きをしなければ、通常は暦年課税
- 贈与をすると相続財産が減るため、将来の相続税の節税になる
- 亡くなった日から3年~7年以内の贈与は、なかったものとみなされる
⇒相続税の節税防止 - 2023年までは、暦年課税が圧倒的に活用されていた
⇒ 会社の株式の贈与を除き、精算課税は使いづらかった
贈与税の改正(2024年1月~)
相続財産への持ち戻し期間が3年から7年に延長
⇒贈与による節税防止のため
相続時精算課税制度に110万円の基礎控除創設(相続財産の持ち戻し対象外)
⇒十分に活用されていない相続時精算課税の使い勝手向上のため
暦年課税と精算課税の件数比較(2023年)
2023年分申告状況から、暦年課税で贈与された方が46万1千人、相続時精算課税で贈与された方が4万9千人となっています。
出典:令和5年分所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について|国税庁
相続時精算課税制度とは?改正はいつから?
相続時精算課税制度とは?改正はいつから?
「相続時精算課税制度」とは、高齢者から若年層への生前贈与を促進し、経済を活性化するために設けられた贈与税の制度です。
生前贈与を促進する制度ですので、贈与する時は2,500万円までの贈与が非課税になります。
しかし、相続時精算課税制度は、その名の通り「相続時」に生前贈与した分を「精算」して「課税」する「制度」ですので、贈与した人が亡くなったときの相続税では、生前贈与した財産も故人の財産に含めて相続税が課税されます。
つまり、贈与時点では税金は生じませんが、最終的には相続税として税金が課税されるので、「相続時精算課税制度」は節税策というよりも税金を支払うタイミングを先延ばしするという制度となっています。
そのため、「相続時精算課税制度」のメリットを受けられる人は限られており、適用件数はさほど多くはありませんでした。
しかし、2024年1月1日以降の贈与については新しいルールに改正され、「相続時精算課税制度」がとても使いやすくなり、多くの人にメリットがあるお得な制度に変わりました!
相続時精算課税制度の適用対象者
相続時精算課税制度は、誰でも利用できる制度ではありません。
「相続時精算課税制度」の適用を受けるには、以下2点の要件を満たしている必要があります。
- 「贈与をする人(あげる人)」は、贈与をする年の1月1日時点において60歳以上であり、贈与を受ける人の直系尊属(父母もしくは祖父母)であること
- 「贈与を受ける人(もらう人)」は、贈与を受ける年の1月1日時点で18歳以上であり、贈与をする人の直系卑属(子供もしくは孫など)であること
相続時精算課税制度の計算方法
相続時精算課税制度を適用した場合の贈与税の計算式は以下の通りです。
相続時精算課税制度を適用する場合、以下2つの非課税枠があります。
- 基礎控除額(年間110万円)
- 特別控除額(累計2,500万円)
この非課税枠を超えない限り、贈与税はかかりません。
贈与した金額が非課税枠を超える場合には、その超える金額に対して20%の税金が課税されます。
基礎控除額
基礎控除額は年間110万円までが非課税となります。
特別控除額
特別控除額は累計2,500万円までが非課税となります。
「基礎控除額」と「特別控除額」の2つの非課税枠の大きな違いは、基礎控除の110万円は年間額ですが、特別控除額の2,500万円は累計額である点です。
次の具体例を一緒に確認していきましょう。
<具体例>
①2024年(贈与1年目)に3,000万円を父から長男に贈与し、相続時精算課税制度を適用
②2025年(贈与2年目)に200万円を父から長男に贈与
1年目は非課税枠が110万円と2,500万円を足した合計2,610万円ありますが、2年目については累計2,500万円の非課税枠はもう残額が0円のため、110万円のみとなります。
つまり、この具体例のケースでは2年目以降は年間110万円を超える贈与をした場合には、贈与税が課税されるということです。
相続時精算課税制度のメリット
年間110万円までの贈与は、相続時に加算しなくてOK
暦年課税の場合
暦年課税での贈与であれば、年間の贈与金額が110万円以下であったとしても、贈与した人が亡くなった場合には、「亡くなった日から7年以内に贈与していた金額」は、相続財産に加算して相続税を計算します。
つまり、暦年課税での贈与による年間110万円の非課税枠を使って節税をしたとしても、贈与してから7年以内に亡くなってしまうと、節税効果が無効化されてしまい、結局相続税を負担することとなります。
相続時精算課税制度の場合
しかし、相続時精算課税制度での贈与であれば、年間110万円までの贈与金額については、贈与した人が亡くなった場合でも、相続財産に加算する必要がありません。
亡くなった日から7年以内に贈与していたとしても加算する必要が無いのです。
つまり、相続時精算税制度での贈与であれば、亡くなってしまうタイミングに関わらず確実に節税ができるということです。
2,500万円まで贈与税が非課税
暦年課税の場合
暦年課税の場合には、非課税枠は年間110万円が上限ですので、今すぐに110万円超の金額を贈与したい場合、贈与税がかかってしまいます。
例えば、父から長男に1,000万円を贈与した場合、暦年課税ですと177万円の贈与税が課税されます。
<贈与税の計算>
(1,000万円-基礎控除額110万円)×30%-90万円=177万円
相続時精算課税制度の場合
相続時精算課税制度を使うことで、非課税枠は年間110万円の基礎控除額に加え、累計2,500万円の特別控除額の最大2,610万円までの贈与が非課税となります。
そのため、今すぐに110万円超の金額を贈与したい場合であっても贈与税がかからないというメリットがあります。
例えば、父から長男に1,000万円を贈与した場合、相続時精算課税制度であれば贈与税はかかりません。
<贈与税の計算>
(1,000万円-基礎控除額110万円-特別控除額2,500万円)×20%=0円
2,500万円を超えたとしても税率は一律20%
暦年課税の場合
暦年課税の場合、「超過累進税率」といって贈与金額が大きければ大きいほど税率が高くなり、最高55%の税率となります。
相続時精算課税制度の場合
相続時精算課税制度は、基礎控除額(年間110万円)と特別控除額(累計2,500万円)の最大2,610万円までは贈与税が非課税となりますが、もし仮に最大2,610万円を超えて贈与をしたとしても税率は一律20%となります。
そのため、多額の贈与をしたとしても、暦年課税と比較すると贈与税の金額が低くなります。
暦年課税との併用で最大220万円を非課税にできる
暦年課税と相続時精算課税制度は、贈与をする人ごと(ペアごと)にそれぞれ選択することができますので併用可能です。
例えば、父から暦年課税で110万円の贈与を受け、母から相続時精算課税制度で110万円の贈与を受けることができます。
もっと言うと「暦年課税の基礎控除額110万円」と「相続時精算課税制度の基礎控除額110万円」の併用が可能ですので、最大220万円の節税が可能です。
ただし、暦年課税については、「亡くなった日から7年以内に贈与していた金額」は相続財産に加算されますので注意が必要です。
相続争いを未然に防げる
これは暦年課税と相続時精算課税制度の両方に言えることですが、生前贈与をすることで相続争いを未然に防ぐことが可能です。
特に相続財産が多額にある場合や、不動産が遺産の中に含まれている場合には相続人間で誰がどの財産をどの程度相続するのか争ってしまうことが多いです。
事前に生前贈与をすることで、「誰に」「どの財産を」「どの程度承継したい」と事前に確定できるため、相続人間での争いを生じない仕組みづくりができるのです。
相続時精算課税制度のデメリット
直接節税になるわけではない(110万円を超える贈与)
「相続時精算課税制度」は、その名の通り「相続時」に生前贈与した分を「精算(つまり加算)」して「課税」する「制度」ですので、贈与した人が亡くなったときの相続税では、生前贈与した財産も故人の財産に含めて相続税が課税されます。
つまり、相続時精算課税制度を利用した場合、納税のタイミングが贈与時点なのか、相続時点なのかの違いだけで結局税金は課税されます。
ただし、110万円以下の贈与であれば、相続時に加算されませんので贈与時点も相続時点も非課税となり、節税効果があります。
暦年課税が使えなくなる
相続時精算課税制度を使うと、同じ贈与者からの暦年課税が使えなくなります。
もちろん同じ贈与者からの贈与について「相続時精算課税制度」と「暦年課税」の併用もできません。
ただし、Aさんからの贈与については「相続時精算課税制度」を使い、Bさんからの贈与は「暦年課税」を使うということは可能です。
「小規模宅地等の評価減の特例」が使えなくなる(不動産の贈与)
「小規模宅地等の評価減の特例」とは、一定の要件を満たす場合に土地の評価額を最大80%減額できる相続税の制度です。
これは、相続税の制度であり贈与税にはない制度です。
そのため生前贈与をすることにより、「小規模宅地等の評価減の特例」という、とてもお得な制度を使えなくなってしまいます。
移転コストがかかる(不動産の贈与)
不動産は所有者が変わる場合、「登録免許税」や「不動産取得税」といった移転コストがかかります。
なお、不動産を相続により承継する場合には、「登録免許税」は0.4%に軽減され、「不動産取得税」はかかりませんので、移転コストが大きく軽減されます。
しかし、不動産を生前贈与する場合には、特に移転コストは軽減されないため、相続で承継する場合と比較して約9倍~15倍の移転コストを負担することとなります。
相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できる?
前述しましたが、暦年課税と相続時精算課税制度は、贈与をする人ごと(ペアごと)にそれぞれ選択することができますので併用可能です。
例えば、父から暦年課税で110万円の贈与を受け、母から相続時精算課税制度で110万円の贈与を受けることができます。
もっと言うと「暦年課税の基礎控除額110万円」と「相続時精算課税制度の基礎控除額110万円」の併用が可能ですので、最大220万円の節税が可能です。
ただし、暦年課税については、「亡くなった日から7年以内に贈与していた金額」は相続財産に加算されますので注意が必要です。
相続時精算課税制度は使った方がいいの?
相続時精算課税制度を使った方がいい人
以下のいずれかに該当する人は、相続時精算課税制度を使った方がお得です。
- 現在、110万円以下の贈与を毎年している人
- 7年以内に亡くなってしまう可能性が高い人
- 評価額の上昇が見込まれる財産を贈与する方(未上場株式など)
暦年課税と相続時精算課税制度はどちらも、年間110万円の基礎控除額があります。
暦年課税での贈与であれば、年間110万円の非課税枠を使って節税をしたとしても、贈与してから7年以内に亡くなってしまうと、節税効果が無効化されてしまい、結局相続税を負担することとなります。
しかし、相続時精算課税制度での贈与であれば、年間110万円までの贈与金額については、贈与した人が亡くなった場合でも、相続財産に加算する必要がありません。
亡くなった日から7年以内に贈与していたとしても加算する必要が無いのです。
つまり、相続時精算税制度での贈与であれば、亡くなってしまうタイミングに関わらず確実に節税ができるということです。
そのため、「現在、110万円以下の贈与を毎年している人」、「7年以内に亡くなってしまう可能性が高い人」にとっては確実に節税ができる相続時精算課税制度がオススメといえます。
相続時精算課税制度を使わない方がいい人
「相続税の見込み額が高額な人」は、暦年課税で110万円を超える贈与をして、あえて贈与税を払った方がお得になることがあります。
これは「贈与税の税率」と、「相続税の税率」の「差」を利用した節税策です。
なお、贈与税率と相続税率の差を利用した「最適な贈与額」を把握するには、相続税額の試算を行い相続税の限界税率がどの程度となるか確認する必要があります。
この相続税額試算を誤って計算してしまうと、「最適な贈与額」も大きく変わってしまい、結果的に損してしまうことがありますので注意しましょう。
ただし、「亡くなった日から7年以内に贈与していた金額」は相続時に加算されてしまいます。
そのため、相続税の見込み額が高額であっても7年以内に亡くなってしまう可能性が高い人は、相続時精算課税制度を使った方が年間110万円の確実な節税ができます。
暦年課税と相続時精算課税の比較
2024年最新版(改正対応)の暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較表です。
どちらを選択するかの判断材料としてご利用ください。
年100万円を贈与した場合の具体例
暦年課税贈与した場合
暦年課税制度を適用して年100万円で贈与する場合、贈与した700万円のうち、600万円が相続税の課税対象となる
相続時精算課税贈与した場合
相続時精算課税制度を適用して年100万円で贈与する場合、相続発生から7年以内の贈与であっても相続税の課税対象とならない
おわりに
相続時精算課税制度は、2024年1月からとてもお得な制度に変わりました。
多くの人にとって相続時精算課税制度はメリットのある制度になりましたので、相続時精算課税制度の活用も検討してみてくださいね。
なお、人によっては暦年課税で贈与をした方がいい場合もありますので、まずは相続税額がどの程度となりそうか試算することをオススメします。
事前に相続税額を把握することで、効果的な節税を行いましょう!
神奈川県茅ヶ崎市にある
相続に強い税理士法人シーガルでは
代表税理士が直接担当します。
対応エリアは茅ヶ崎市、藤沢市、鎌倉市を
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