【相続税を払えないときの対処法7選】メリット・デメリットを相続に強い税理士が解説

この記事の監修者

遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士

医療に特化した個人会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、相続専門の税理士法人シーガルを設立。
相続のプロとして相続税申告・相談・セミナー講師と多岐に活動中です!

中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、相続専門の税理士法人シーガルを設立。
難しい相続の専門用語を使わず、わかりやすく説明することをモットーとしています!

相続税は、故人が亡くなった日の翌日から10か月以内に国に納税をしなければなりませんが、この際に相続税を払えないという状況に陥ることがあります。

相続財産のほとんどが預貯金や有価証券などの金融資産であれば相続税を払えないという状況にはなりませんが、不動産などの換金しづらい財産が相続財産のうち多くの割合を占めている場合には、相続税を払えない状況に陥ってしまいます。

期限内に相続税を払わなかった場合、本来払うべき相続税に加え、延滞税や加算税などのペナルティが課せられることになってしまいます。

今回は、「相続税を払えない場合どうすればいいのか?」相続税を払えないときの対処法はあるのか?」について相続税に強い税理士が徹底解説します。

本記事を最後までお読みいただくことで以下の悩みを解消できます。

  • 相続税を払えないときの対処法は?どうすればいいの?
  • 「相続税を期限までに払えないとどうなるの?
  • 「相続税を払えない状況を事前に防ぐ対策方法は?」
目次

相続税が払えないときの対処法7選

相続税が払えないときの対処法は次の7つが考えられます。

  • 延納(分割払い)
  • 物納(不動産などの現物払い)
  • 銀行で借り入れ
  • 相続財産の売却(不動産や車など)
  • 相続放棄
  • 預貯金の仮払い制度
  • 相続財産の一部分割

ひとつずつ分かりやすく解説していきます!

延納(分割払い)

延納のメリット
財産を手放さずに相続税を最長20年間で分割払いできる

延納のデメリット
相続税の未払い分について利子税が生じてしまうため、支払う税額は増えてしまう


相続税は故人が亡くなった日の翌日から10か月以内に納税しなければなりません。

相続税の納税方法は、原則として現金一括払いとなっています。

ただし、以下の要件を満たすことで特例として延納(相続税の分割払い)が認められる場合があります。

  • 相続税が10万円を超えること
  • 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
  • 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。
    (延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。)
  • 延納申請に係る相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。

引用:相続税の延納|国税庁

延納は、財産を手放さずに最長20年間で相続税の分割払いができます。

しかし、相続税の未払い分については利子税がかかるため、トータルで納める税額は増えてしまうことになります。

物納(不動産などの現物払い)

物納のメリット
譲渡所得税がかからない

物納のデメリット
本来の価値よりも低く評価されてしまう

物納は、現金での一括納税ができず、延納をしても現金で相続税を納税できない場合に認められる納税方法です。

具体的に相続税の物納の要件は、以下のとおりです。

  • 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
  • 物納に充てることができる財産は、物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)に該当しないものであることおよび物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
  • 物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること。

引用:相続税の物納|国税庁


なお、物納ができる財産と優先順位は、物納する財産は日本国内にあるものに限られており、具体的には下記のとおり定められています。

  • 第一順位
    不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
  • 第二順位
    非上場株式等
  • 第三順位
    動産

引用:相続税の物納|国税庁

相続税を物納するメリットとしては譲渡所得税がかからない点が挙げられます。

本来、財産を売却する際には譲渡益に対して譲渡所得税がかかります。

しかし、相続税の物納は、国に対する譲渡であるため譲渡所得税はかかりません。


相続税の物納のデメリットは、物納する財産が低い価格で評価されてしまう点です。


物納する財産の価格は、相続税を計算する際の評価額である相続税評価額となります。

相続税評価額は、一般に取引される時価より低いことが多いため、相続税の物納という選択肢ではなく、不動産を売却して得た資金で納税するほうが有利になる場合があります。

一般に取引される時価は、不動産会社に査定を依頼すればわかりますが、相続税の納税のために売却を急いでしまうと不動産を安く買いたたかれてしまう可能性がありますので注意が必要です。

銀行で借り入れ

銀行で借り入れのメリット
財産を手放す必要が無く、利子税より利率が低い場合には延納よりメリットが大きい

銀行で借り入れのデメリット
担保や保証人が必要となり、審査が厳しい

銀行で借り入れを行えた場合、財産を手放さずに相続税を払うことが可能となります。

また、「銀行で借り入れをした場合の利息」「延納をした場合の利子税」と比較して安く済むのであれば、延納よりも銀行借り入れの方がメリットがあると言えるでしょう。


ただし、銀行で借り入れを行うには担保や保証人が必要となり、審査が厳しいです。
場合によっては審査が長引いてしまい、納税期限に間に合わない可能性も生じます。

また、銀行で借り入れを行う場合には、返済計画に注意する必要があります。

相続により取得した不動産で不動産収入が得られ返済を行っていけるのであれば問題ありませんが、不動産収入などが見込めない場合には不動産や有価証券の売却を前提に一時的な「つなぎ融資」も検討しましょう。

相続財産の売却(不動産や車など)

相続財産の売却のメリット
物納と比べて、本来の価値で売却することができる

相続財産の売却のデメリット
売却を急ぐ必要があり、譲渡益には譲渡所得税がかかってしまう

不動産や車などの相続財産の売却をすることで、売却代金で相続税を払うことができます。

前述の通り、物納の場合には物納する財産の価格は、相続税を計算する際の評価額である相続税評価額となります。

相続税評価額は、一般に取引される時価より低いことが多いため、相続税の物納という選択肢ではなく、不動産を売却して得た資金で納税するほうが有利になる場合があります。

なお、一般に取引される時価は、不動産会社に査定を依頼すればわかりますが、相続税の納税のために売却を急いでしまうと不動産を安く買いたたかれてしまう可能性がありますので注意が必要です。

また、不動産や車などの相続財産の売却をする場合には譲渡所得税がかかってしまうので注意が必要です。

相続放棄

相続放棄のメリット
相続税を払う義務がなくなる

相続放棄のデメリット
財産を相続できず、故人が亡くなってから3ヶ月以内に申立てしなけれならない

相続放棄とは、相続財産に関する一切の権利や義務を放棄することをいいます。

相続放棄をすると財産を相続しないため、相続税を払う必要はありません。

しかし、故人が亡くなった日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければならず、相続放棄後に新たに財産が出てきたとしても相続することはできません。

つまり、相続放棄は手続き期限が短く、一度選択すると撤回できないことに注意が必要です。

なお、相続放棄をした場合、相続する権利義務が次の順位の相続人に渡ることとなりますので、結局相続税を払う義務も次の順位の相続人に渡ってしまいます。

預貯金の仮払い制度

預貯金の仮払い制度のメリット
遺産分割協議がまとまっていなくても相続税を払うことができる

預貯金の仮払い制度のデメリット
相続放棄できなくなる可能性がある

預貯金の仮払い制度とは、遺産分割協議を行う前であっても、一定金額を相続人が故人名義の預貯金を引き出せる制度のことです。

預貯金の仮払い制度は、民法改正により2019年7月1日から適用開始されています。

改正前は、預貯金は名義人が亡くなると口座が凍結され、相続人全員の同意や遺産分割協議が成立するまでは、相続人は預貯金を引き出すことはできませんでした。

しかし、葬儀費用の支払いなどで早急にお金が必要な時に相続人が困ってしまうことが多いため、民法改正により、一定金額までであれば遺産分割協議が成立する前であってもお金を引き出せるようになりました。

遺産分割協議が成立できないことを理由に預貯金からお金を引き出すことが出来ず、相続税が払えない場合に「預貯金の仮払い制度」は有効です。

相続財産の一部分割

相続財産の一部分割のメリット
預貯金を先に分割して相続税を払うことができる

相続財産の一部分割のデメリット
残りの相続財産について分割協議が必要

遺産分割協議が成立できずに、相続税の申告期限までに相続税を払えない場合には、相続財産の一部分割を検討します。

遺産分割は相続財産のすべてを1回で分割する全部分割が通常ですが、相続人全員で合意すれば、相続財産の一部分割をすることができます。

【民法907条】
(遺産の分割の協議又は審判)
共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

民法907条|e-gov法令検索

そのため、相続税の納税に充てられる預貯金の分割を優先し、不動産やその他の相続財産の分割は後回しにすることで、相続税の申告期限までに相続税を払うことができます。

相続税を払えないとどうなるの?

相続税の申告を申告期限までに行わず、相続税も申告期限までに払えない場合、以下のペナルティが生じます。

  • 無申告加算税
  • 延滞税

無申告加算税

無申告加算税は、相続税の申告期限までに相続税の申告をしなかった場合に生じるペナルティです。

無申告加算税は以下の状況に応じて税率は変わります。

無申告となっている場合には、今すぐにでも相続税の申告手続きを行いましょう。

  • 税務調査の事前通知を受ける前に自主的に申告した場合・・・5%
  • 税務調査の事前通知を受けてから税務調査を受けるまでに申告した場合・・・10%~25%
  • 税務調査を受けてから申告した場合・・・15%~30%

延滞税

延滞税は、相続税の支払いが納付期限に間に合わなかった場合に生じるペナルティです。

延滞税は原則として「納期限の翌日から2か月を経過する日までは年7.3%」「納期限の翌日から2か月を経過した日以後は年14.6%」と定められていますが、平成12年以降は長期化する低金利に対応するため延滞税の税率は以下の通りとなっております。

期日納期限の翌日から2か月を経過する日まで納期限の翌日から2か月を経過した日以後
令和6年1月1日~令和6年12月31日年2.4%年8.7%
令和5年1月1日~令和5年12月31日年2.4%年8.7%
令和4年1月1日~令和4年12月31日年2.4%年8.7%
令和3年1月1日~令和3年12月31日年2.5%年8.8%
令和2年1月1日~令和2年12月31日年2.6%年8.9%
平成31年1月1日~令和1年12月31日年2.6%年8.9%

相続税を払えない状況を事前に防ぐ対策3選

前述した通り、相続税を払えないと本来払うべき税金と多額のペナルティが加算されてしまいます。

相続税の納税資金問題は、生前に対策を行わないと相続人にとても大きな負担を強いることとなってしまいます。

また、生前に対策を行うことで相続税を払えない状況を事前に防ぐことが可能です。

相続税を払えない状況を事前に防ぐ対策案を3つご紹介します。

  • 不動産を売却し現金化する
  • 生命保険に加入する
  • 相続人に生前贈与を行う

不動産を売却し現金化する

相続税を払えない状況というのは、相続財産のうち不動産の割合が高いことが原因で発生しやすいです。

そのため、生前に不動産を売却し現金化しておくことで、相続税を払えない状況を事前に防ぐことができます。

不動産は相続後に売却をすることもできますが、相続税の納税のために売却を急いでしまうと不動産を安く買いたたかれてしまう可能性があります。

また、遺された相続人からすると故人がお持ちであった不動産をすぐに売るという決断を行うのは容易ではありません。

相続人への負担も考慮して、生前に不動産の売却は検討しましょう。

生命保険に加入する

生命保険の受取人を相続人とする生命保険に加入することで、相続税を払えない状況を事前に防ぐことができます。

保険金は遺産分割協議の対象外なので、受取人である相続人は確実に保険金を相続税の納税に充てることができます。

相続が発生すると被相続人の預金口座は凍結され、「預貯金の仮払い制度」を活用しないとお金を引き出すことはできませんが、生命保険であれば、保険会社へ請求してから1週間程度でお金が振り込まれます。

なお、保険金は相続税が課税対象ですが「500万円×相続人の数」については非課税になりますので、生命保険に加入することで相続税の節税と相続税の納税資金対策を同時に行うことが可能です。

相続人に生前贈与を行う

相続人に対して生前に現金を贈与しておくことで、相続税を払えない状況を事前に防ぐことができます。

相続人は、贈与された現金を貯金しておくことで、故人が亡くなってしまった場合に相続税を払うことができます。

現金を贈与した場合、原則として贈与税がかかりますが、年間110万円までであれば贈与税はかかりません。

生前に現金を贈与をすることで個人の相続財産は減っていきますので、生前贈与は相続税の節税と相続税の納税資金対策を同時に行うことが可能です。

おわりに

今回は、「相続税を払えないときの対処法」を7つ解説しました。

どの対処法についてもメリットとデメリットがありますので、どの対処法が一番いい方法であるか適切な判断が必要です。

相続税を期限までに払えない場合、多額のペナルティが生じてしまいますので、相続税が払えない状況の方は相続税に強い税理士にご相談いただくことを推奨します。

税理士法人シーガルでは
代表税理士が直接担当します。

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